『棚卸資産』とは、商品や原材料といった在庫などの、企業が所有している物品を資産計上する際の勘定科目です。
一方、『貯蔵品』は梱包材や事務用品、収入印紙などの、直接的には売上に関わらない物品でかつ未使用のものを計上する勘定科目です。
どちらも物品を資産計上するための勘定科目なので、混同してしまいがちですが、処理の仕方が異なるため注意が必要です。
そこで今回は、2つの違いと適正な会計処理について説明します。
棚卸資産を抱えるメリットとデメリット
棚卸資産と貯蔵品の違いは、その物品が直接売上に関わるかどうかにあります。
棚卸資産に分類されるのは直接的に売上に関わる物品であり、貯蔵品に分類されるのは直接的には売上に関わらない物品となります。
棚卸資産は、事業者が期末時点で保有している商品や在庫、加工が必要な原材料などが該当します。
これらは企業の大切な資産であり、売上につながるものですが、在庫の時点では売上原価として計上することはできません。
棚卸資産を長期間保管しておくことには、いくつかデメリットがあります。
一つは、いつまでも棚卸資産を販売できずにいると、仕入れにかかった代金の回収ができないうえに、管理・保管のための人的コストや保管場所の維持費などがかかってしまうことです。
また、商品の品質劣化や賞味期限切れ、流行遅れなどの理由によって、商品の価値が落ちてしまうこともあります。
さらに、在庫である棚卸資産を多く抱えることは、税務上のデメリットも発生します。
商品の売上原価は、前期末の棚卸資産に当期の仕入高などを足して、期末の棚卸資産を差し引いて算出します。
そのため、棚卸資産が増えれば売上原価が少なくなります。
売上原価が減ると利益が増加するので、所得税と法人税もより多く課税されることになります。
つまり、前期末の棚卸資産と比べ、当期末の棚卸資産が多ければ多いほど課税額が増え、棚卸資産が少なければ少ないほど課税額は少なくなるというわけです。
一方、棚卸資産として在庫を抱えていることには、受注してすぐに納品できるというメリットもあります。
これは営業上大きな強みといえるでしょう。
棚卸資産があれば、突然の需要増にも対応でき、商品の交換や破損などに応じることもできますが、それがなければ、販売機会を損失してしまい、業績の悪化を招きかねません。
大切なのは、棚卸資産のメリットとデメリットを理解し、バランスよく棚卸資産を保有することです。
そのためには、コスト増でも棚卸資産を持つのか、コスト減のために棚卸資産を持たないのかといった方針を、綿密に検討したうえで決めることが大切です。
購入した時点で計上できる貯蔵品の条件とは
貯蔵品は売上に直接関係のない物品が該当します。
文房具やコピー用紙などの事務用品、封筒やダンボールなどの梱包材、カタログやチラシなどの販促資材といった『消耗品』と、収入印紙や郵便切手などの『金銭的価値のあるもの』に分けることができます。
貯蔵品は棚卸資産とは異なり、使用した時点で費用として計上することができます。
たとえば、郵便切手を20枚購入して、すぐに5枚使用したとします。
切手の勘定科目は通信費なので、使用した5枚については通信費で仕訳し、残り15枚の未使用の切手は期末に振替処理を行い、貯蔵品として計上します。
ただし、封筒1枚、ペン1本といった物品をいちいち計上していては手間がかかってしまいます。
事務用品や梱包材など、常に使用するもので毎年概ね一定量を購入する貯蔵品に関しては、購入した時点で経費として計上することが特例で認められています。
注意点としては、この特例を使うためには、毎年同じ処理をする必要があるということです。
たとえば、前年度は経費計上していたけれども、今年度は経費計上しないといったことはできません。
また、利益を圧縮することなどを目的とし、貯蔵品を大量に購入して経費計上することも認められていません。
貯蔵品は費用計上時に数量のコントロールができてしまうため、税務調査では重点的に調べられることが多いので注意しましょう。
貯蔵品は適切に処理すれば相応の節税効果を得られるので、間違いのない会計処理を心がけましょう。
※本記事の記載内容は、2023年3月現在の法令・情報等に基づいています。